娘が日本へ行くのは3年ぶり。東京の放射線量が下がるのを待っていたからです。

前回は2010年夏、小学校2年生の体験入学でした。
日本人を海外で育てるときに、小学校への体験入学は日本語学習だけでなく、日本社会を経験するのに役立ちます。
小学校1年生から毎年、同じ小学校に通わせて日本にも幼馴染を作ってあげるのが私の希望でした。
1年生、2年生の夏は、私の実家に1ヵ月半滞在し地元の小学校に通いました。
2011年も2月中に航空券を買い、準備は万端でした。
ところが3月11日の東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所の原発が4基メルトダウン事故を起こして爆発し、大量の放射能が大気中に放出されました。

爆発の様子やタイミング、重さ、その時の気象によって、様々な種類の放射能が、あちこちに運ばれました。
放射性物質は時間とともに、放射線を出しながら崩壊し、放射線を出さない他の物質に変化し、消えていきます。
ある一定量の放射性物質の半分が消えるまでにかかる時間を「半減期」と呼びます。
原発事故で大気中に出た放射性物質のうち、キセノンなどのガス状の放射性物質(希ガスと呼びます)は半減期が数分から数時間や数日で、わりと早いうちに消え、観測されなくなりました。

甲状腺がんの原因になる放射性ヨウ素131の半減期は8日。放射性ヨウ素がほぼ東京で観測されなくなったのは、2011年の5月半ばくらいからです。
各航空会社は5月中の出発までは、格安チケットでもペナルティ無しでキャンセルに応じていたのですが、6月出発分は平常の取り扱いに戻ってしまいました。
とても悩みましたが、お高いキャンセル料を払ってチケットをキャンセルし、体験入学は取りやめにしました。

と言うのも、まだセシウムが環境中に残っていたからです。
原発の燃料のウランが分裂すると、ストロンチウム90、セシウム134、セシウム137ができます。
他の金属と合金になったり、爆発炎上した際にできた塵や埃に付着して大気中に出たセシウムは、遠くまで風に運ばれ、降り積もったり、雨で地面に叩き落されたりしました。
たまたま大量のセシウムが上空に流れ込んでいたときに雨が降った地域には、より多く落下しました。

降ったセシウムは最初のころは雨や風で移動しました。
埃のたまりやすいところ、雨水の流れ着く先に集まっていきます。
だから、フィルター類、雨どいの出口、排水溝、滑り台の下など雨水が乾いた場所に、セシウムが滞留しています。
コンクリの上からは流れ去ったようですが、アスファルトや土は浸透性があるので沈着しています。
化学繊維や合成樹脂も構造的に結合しやすいようで、屋根の建材などに沈着してしまうと高圧洗浄機で洗い流したり、アスファルトや土ごと取り除かない限り、いつまでもそこにあります。
東京の場合、建物の北東側の土壌、屋根の溝、屋上、植え込みや河川敷の土壌に溜まっているのが測定されています。

セシウム134の半減期は2年、セシウム137の半減期は30年です。事故直後はセシウム134と137の割合が1対1でしたから、2年後には0.5対1になる計算です。セシウム137も少しづつ減るので、最初のセシウム全体の量を1とすれば、2年半でおよそ6割ちょっと、3年あれば流れていく分も含めて約半分くらいになります。

「2年半待てば自然に半分くらいになる。そして、その後は急速に減っていくことはない。
娘とおじいちゃん、おばあちゃんには可愛そうだけど、2年は娘を日本に連れて行くのは我慢しよう。」
私たち夫婦は、こういう結論を出しました。

もちろん、2年間に再び大量の放射能が巻き散らかされたら、この予定も変更するつもりでした。
実際、今でも福島第一原発からは通常時とは比較にならないほど多くの放射能が環境中に出ていますし、放射性物質がついたゴミや瓦礫を普通の焼却炉で燃やしたために放射能が大気中に出ています。
それでも、事故後の2年間に比べれば放射線量は減っているので、短期に滞在する間の外部被曝量は北米に生活するのと大差ないと考えています。

実家がある武蔵野市の場合、2011年夏はガイガーカウンターでの計測が1時間当たり0.15マイクロ・シーベルトくらいでした。当時、武蔵野市議の川名ゆうじさんが測定結果をブログで報告してくれていました。
今回、エステーのエアカウンターSで測ったら、実家周辺の空間放射線量は1時間あたり0.06から0.08マイクロ・シーベルトくらいでした。
ワシントン州の家の中が毎時0.05マイクロ・シーベルトくらい、洗面所のグラナイト・カウンターが毎時0.07マイクロ・シーベルトくらいなので、外部被曝については大差なく、予想通りでした。

その辺にセシウムがあることは事実なのですが、何年待っても空間線量はこれ以上下がらないので、おじいちゃん、おばあちゃんの年齢を考えて、娘が東京に遊びに行くのを再開することにしました。今年は夏に帰省する予定でいます。