今年、我が家では「サンタさんからのプレゼントは何がいい」という会話がなかった。

プリスクールで作ったクリスマスオーナメントを、自分の顔写真がついている1つを除いて、クリスマスツリーに飾らなかった。

昨晩、ツリーの下にプレゼントを並べていて、小さなジュエリー・ボックスに気がついた。娘から私へのプレゼント。

娘12歳。自然に、こういう日が来るんだなあ。

こちらは、私たちから娘へのプレゼント。
リクエストされた『ヘタリア』と、サプライズのオックスフォード『世界地図』とCIA『各国要覧』。クーポンとおまけのギフトカードでタダになった『The Heroes of Olympus』の3巻セット。こちらは、Barnes & Nobleからのプレゼントだね。

そもそも『ヘタリア』を知ったのは今年の10月のことであった。
現地校の先輩と話しているときに、二人ともベルリンの壁があった国の名前が思い出せなくて、娘が「日本語なら分かるんだけど」と言ったら、先輩が「日本語で言って」と言うので、「ドイツ」と答えたら、先輩が「Germanyだ」と即答。
「なんで、ドイツがGermanyだって知っているの?」と聞いたら、「アニメで覚えた。日本語でドイツと言うたびに、Germanyと字幕が出るから」と、そのオタクの先輩は涼しい顔で答えたそうだ。
(ちなみに、この先輩はオタクなので、自分のことをSENPAIと自称している。)

帰宅してすぐに、この話をした娘。「国が人間であれこれするアニメ」を二人で探して見つけたのが『ヘタリア』だった。
第二次世界大戦中のイタリア兵がへたれだったというネタからタイトルをつけた、国家を擬人化したウェッブ漫画。娘と二人で爆笑しながら第二次世界大戦をネタにした本編を全部、読んだ。

ロシアさんが「コルコル」と震えながら言うネタで、「コルホーズって何?」と聞かれ、共産主義ソビエトのソフホーズとコルホーズのことを説明し、そこから資本主義と共産主義の違いを聞かれて、「その話は長いから寝なさい」と打ち切ったのが既に懐かしい。

なぜならそれから毎日、娘は『ヘタリア』のサイトにアクセスして、漫画を読み進めていったのだ。オタクの英才教育を受けているうちの娘は、しつこい。はまると気が済むまで読み続ける。そして、『ヘタリア』は毎日、ネタが更新され続けている。読み終えるということがない。

ネタが理解できないと、質問してくる。
最初は、「リトアニアってどこにあるの?」なんて可愛い質問だった。
「自分で探しな〜」と地球儀を与える。
「ラトビア可愛いね。バルト三国だったら、どこが一番、大きいのかな」と即答できないことを聞いてくると、「Wikiを見てみようか」と手助けした。
しかし毎日の質問攻めに、私はすぐに根をあげ、「ぐぐれかす」って言葉の意味を教えてあげた。「聞く前に調べろ。」

彼女はめんどくさいとも言わず、『ヘタリア』のネタの背景調べにはまった。そのうちWikiでは物足りなくなったようだ。
「今日は補習校の図書室で、ヤルタ会談について載っている本を紹介してもらったよ。高校生が読むような本だったけど、その部分だけなら読めた。」紅谷先生、ありがとうございます。

9月に日本語補習校の二学期が始まった時は、社会の宿題をしながら、「なんで歴史なんか勉強する必要があるわけ?」とぶーぶー言っていたのに。ノンフィクションは漢字が難しいと読まなかったのに。
『ヘタリア』さまさまだ。

私が歴史を好きになったのも、漫画だった。5年生の時に『ベルサイユのバラ』にはまって、中央公論の『世界の歴史』の市民革命の巻だけ買った。そして、フェルゼンの肖像画を見てショックを受けたのだ。6年生の時に『はいからさんが通る』にはまって大正デモクラシーを知って、中1で『浅黄色の伝説』で新撰組にはまって司馬遼太郎を読み始めた。

きっかけは何でもいい。そこから、知識の海原へ漕ぎ出していけば、世界は無限だ。私の子ども時代と違って、今はインターネットがある。行こうと思えばどこまでも行ける。それでも、船とオールが必要だろう。
航海の役に立ってくれるようにと『世界地図』と『各国要覧』を選んだ。

地図もデータもネットで見れるけど、本の形ならパラパラとめくることができる。
めくる。って大事だと思う。たまたま開いたページの、たまたま目にしたものが、記憶の底に残っている何かとつながっていくから。



今年、我が家にはサンタさんが来なかった。
保育園や幼稚園で作ったクリスマス飾りをツリーに飾らなかった。
世界地図を手に入れた。

うちにはもう、小さな子どもはいなくなった。
代わりに大人になる前の人がいる。

私は少し寂しくて、たくさんワクワクしてる。