葛を練るのが面倒だから、なかなか作ろうとしない私に痺れを切らして、娘は自分で葛きりをつくった。

「葛練るの時間がかかるよー」と言ったのは私。
彼女は、「溶けるのに時間がかかるって書いてあったから、まず水に漬けなければ」と言って、葛粉50グラムを300ccの水と一緒に鍋に入れ、どこかに消えた。
そして、忘れた頃に戻ってきた。どうやら、漫画を読んでいるうちに葛を水に漬けたことを、本当にすっかり忘れていたようだ。

台所におやつを食べにきたら、鍋を見て思い出し、料理本に書いてあるように菜ばしを4本つかんで、葛を練り始めた。
「菜ばし4、5本でかき混ぜる。」
よくレシピにこう書いてあるけど、どのように5本の箸を使いこなすのか、理由が書いていないと、菜ばしを束にして握ってしまう。
それでは、効率が悪いのだ。
箸は根元をまとめてもって、先のほうを広げる。開いた扇のように、熊手のように。箸を少し寝かせてかき混ぜると、早く火がはいる。
透明になってきたら、白いところを減らすようにかき混ぜていく。
箸にまとわりついて重くなってきても、どんどん練るとだんだん軽くなってくる。
透明で軽い。そこまでいけば完成。
時間がかかると思ったけど、彼女は短時間で一気に練り上げた。力持ちなのだ。

バットにとって、荒熱が取れたらはさみで切り分け、器にもって、米飴ときなこをかけて、葛きりのできあがり。

葛きりは整腸作用がある。でも、食養生に利くのは本物の葛の根から作られた葛粉だけ。市販の葛切りの原材料を見ると「甘藷粉」つまりさつまいもから精製したでんぷんが使われている。
私は業務用の大きな袋を日本から取り寄せて買っているけど、ホールフードのマクロビオティック・コーナーでもEdenの商品が売っている。
しかし50グラムを葛切りに使うのは贅沢な気持ちになってしまう。
値段のせいだけではなく、本物の葛の生産者が少なく、本葛粉が貴重だからだ。

葛粉を葛の根から作るのはたいへん手間がかかる。
少数の生産者さんが伝統的な手法を守ってがんばっていらっしゃる。
こちらの森野吉野葛本舗さんのホームページには、葛の作り方が美しい写真とともに紹介されている。

多くの人に食養として本物の葛切りを食べてもらいたいと思う一方で、世界中の人に行き渡る量は生産できないとも思う。
それは葛だけでなく、ゴジベリーやヒマラヤのピンクソルトなどについても感じる矛盾だ。
だから、葛切りはたまにしか作らない。独り占めはしないのだ。