娘のリクエストに応えてモラッセス・ブレッドを作りました。

モラッセス(Molasses)は、サトウキビから砂糖を作るときに出る廃液です。糖分以外のミネラルが含まれていて、色は褐色。
今は白砂糖よりも健康に良いと利用する人が多いようですが、白砂糖が貴重品だった昔には、庶民が気軽に使える甘味料でした。

娘の学校で先生が読み聞かせをしてくれている『The Well : David's Story』(Mildred D. Taylor著)の中に、モラッセス・ブレッドを賄賂として警官に渡し、見逃してもらうというシーンがあったそうです。
「賄賂になるくらい美味しいブレッドなのかな?食べてみたい。一度作ってみようよ」と言うので、まずはレシピを検索しました。
ネットで見つけたレシピは、我が家にあるMark Bittmanの『How to Cook Everything Vegetarian』からのものだったので、本を見てビーガン・バージョンで作りました。

焼きたてのモラッセス・ブレッドは、モラッセスを二分の一カップも入れたのに思ったよりも甘くなくて、砂糖が焦げる香ばしい匂いが微かにしました。

「美味しいけど、これが賄賂になるほどの価値があるかなあ?」と尋ねると、娘が説明してくれました。

「刑事さんは、子供のころにお母さんが焼いてくれたモラッセス・ブレッドが大好物だったの。だけど、お母さんはもうとっくに死んじゃって、奥さんは料理のセンスがまったくない人でモラッセス・ブレッドなんて作れず、黒人のお手伝いさんは仕事だから仕方なく料理を作っているって感じで、こっちもモラッセス・ブレッドは作ってくれないわけ。だから、お母さんが作ってくれたのと同じ味が食べられてうれしかったんだと思うよ」と。

このモラッセス・ブレッドのように、イースト発酵をせずに小麦粉とベーキングソーダとバターミルクで膨らませる簡単ブレッドをソーダ・ブレッドと呼びます。
アメリカの開拓時代からある伝統食の1つです。
バターミルクの乳酸がベーキングソーダと反応して二酸化炭素の小さな泡をつくるので、でこぼこしています。

ソーダ・ブレッドの中でも、アイリッシュ・ソーダ・ブレッドは薄力粉で作るので、見た目はパンというより、パウンドケーキです。
このモラッセス・ブレッドも、ティー・ケーキに見えますね。ケーキほど甘くないので、味はパンなのですが。

19世紀になってからアメリカに移民してきたアイルランド系アメリカ人は、カソリックだったので白人だったにも関わらず、アメリカ社会では20世紀に入っても差別されてきました。
警察官や消防士など、タフな仕事に就くことが多かったのです。
この刑事さんも、アイルランド系だったのでしょうね。心の奥深いところの記憶と結びついている味だから、賄賂の役にも立ったのでしょう。

<ビーガン・モラッセス・ブレッドの作り方>
材料 全粒ペイストリー粉 2と1/2カップ
   コーンミール 1/2カップ
   自然塩 小さじ1
   ベーキングソーダ 小さじ1
   豆乳 1と1/2カップ
   りんご酢 大さじ2
   モラッセス 1/2カップ

作り方 
(1)豆乳とりんご酢をよく混ぜ合わせて乳化する。モラッセスを加えてよく混ぜ合わせる。
(2)ボウルに粉類をすべてふるいにかけながら入れる。
(3)1を入れてよく混ぜ、型に入れる。
(4)325F度に予熱したオーブンで1時間焼く。